第2部 基調講演
アダプト・プログラム シンポジウム2009
第2部
基調講演
講師:東海大学准教授・河井孝仁氏
ご紹介いただいた東海大学の河井です。よろしくお願いします。食環境のアンケート結果の中で、協働・連携といったものがアダプトを進めていく上で重要な 鍵となっているというご意見があったことを踏まえて、一定の意味のある内容になればいいなと思っています。アダプト・プログラムがいかに立派かということ よりも、どういう形で普及させることが可能なのか、アダプト・プログラムを通じて地域を作るとはどういうことか、そのことを一緒に考える機会になればと思 います。
まず、地域とは何かを考えてみたいと思います。
自治体の方々にとっては市が地域であると思っていたり、あるいは小学校区ぐらいが地域であると思っていたりすると思います。またコミュニティと地域の違い とは何かといったことを考えられると思います。そもそも地域の定義が十分にされていないのではないかという発想に立って、これからのお話を進めたいと思い ます。
単なる広がり、面積といったものが地域ではないとすると、それぞれ地域の中にはいろいろなことを考えている人がいます。今日はアダプト・プログラムが大 事だと思っている方がお集まりですが、地域にはそうでない方もたくさんいらっしゃいます。子育て・防災が大事だとか、地域でお金をもうけて納税額を上げる ことが重要だと思っている人もいるでしょう。私は、そういう人たちの関心を元にした集まりがあることを前提に、それぞれにあるものをつなげることによって 地域を作るという発想が大事であると思っています。地域は放っておいて何とかなるものではありません。自治体とNPOの連携といったものの中で地域が営ま れていく、地域の人たちがどう幸せに生きられるかを考えていく、そういうものこそが地域だと思っています。
子育てにしろ環境にしろアダプトにしろグルメにしろ、それぞれのグループがいかに橋を渡せるような環境を作るか。アダプトだけを一所懸命やれば地域が出 来るわけではないことは言うまでもないですが、無くてもいいのかというと、そうではありません。こういう発想が鍵になり、それぞれをつなぐ仕組みになると 面白いと思います。
行政だけで地域が経営出来ないのは今更の話です。ガバメントからガバナンスへといった言葉もあります。つまり、地域を、人々を幸せにしてくところと位置 付け、市民が議会や行政にお願いしてやってもらうだけではなく、NPOや企業がいろいろな形で市民の付託を受ける。NPOであれば会員、ボランティア、寄 付といった形から、企業であればCSR、社会責任を果たす一環や地域の中の従業員といった形。それぞれ付託のあり方は異なります。行政であれば投票、それ 以外も多様な民主主義的システムがあります。そういったものをつなげていくことによって地域が出来ていくからこそ、議会とNPOが連携をしてアダプトを 行っていく。行政と企業が連携する、企業とNPOが連携することに意味があるわけです。
私はNPOイコール市民だと考えません。NPOとは市民から負託を受けた存在である。ですから、行政の方が市民協働という形で、NPOと付き合えばいい のだと思いかねない状況ですが、そうではありません。NPOという仕組み、市民と近いところにいる仕組みを使っていかに地域を作るか、そういった発想をし てもらうと違った面が見えてくると思っています。
アダプト・プログラムもその一環だと思います。どういう形で地域をつなぐのか、良くしていくのか。いろいろな事業の目標に、地域の活性化というものがあ ります。去年、地域活性化の定義を設けているところがないか調べたところ、内閣府のページでは一つもありませんでした。北海道庁に一つありましたが、これ は過疎地域についての話でした。地域活性化という言葉が必ずしも定義されないまま何となく使われています。地域振興と置き換えてもいいと思いますが、ここ では二つの定義をさせていただきます。
まず、関心を共にする連携、これが大事だと思っている人たちの集まり、それがそれぞれに活動をし、一方でそれを連携することによって地域の力が作り出さ れる仕組みが大事であるということ。もう一つは、本当に行政・NPO・企業が、市民からの的確な負託・評価を受けているか。その上で市民と共に安心・安 全・元気な地域を作ろうとする、その基礎としてこういうものがあるのではないか。アダプト・プログラムがそこでどういう意味があるのかを考えています。
今日は、地域協働というものによりアダプトを支えていこう、あるいはアダプトというものが地域協働を支えるのではないかという話をしています。では協働 とは何か。NPOと行政が一緒に何かやろうという時にどうしたらいいのでしょうか。最終的にその活動で何をするのかという目標は合意していなければいけま せん。もちろん、そのNPOとはもともと何をしたいのか、そこを明確にすることが前提です。そのNPOにメリットがある、行政にもメリットがあるというこ とを明確化しない限り、地域協働は出来ない。これは企業も同様です。その上で、その場限りで便利だ、あるいはたまたま目に付いた、何となくやってもらえそ うだ、更にはお金がちょっと残っているから、そういった形でやるのではなく、それぞれ参加した人たちがアダプトを通じて学習し成長する仕組みが出来ると嬉 しいなと思います。
今、地域がどういう状況にあるかを考えましょう。もちろん少子高齢化ですとか、経済的な危機等いろいろありますが、人と人のつながりが地域だということ を基礎にして考えれば、実はそれぞれ頑張っている方はたくさんいるはずです。地域の人たちに何らやる気がないわけではなく、頑張っている人はいるものの、 その連携がうまく出来ていない。それはアダプトやまち美化の中でもそういう状況だと思います。お互いに何をやっているか分からない、情報が散らばってい る。結果的にそれぞれ頑張っているのに、地域全体への帰属意識が高まらず、それぞれの活動にとどまっているのではないかと思います。
先ほどのアンケート結果では、アダプト・プログラムの導入は、美化をする、綺麗にするということが大事な目標だと語られる方々もいましたが、他方で連携 だとか地域の売り出しのためにあるとおっしゃる方もいました。アダプト・プログラムをすることにより、それぞれ別々にやっている人たちがうまくつながって いく。あそこで何をやっているかが分かる、そういう仕組みを作ることが大事なのではないでしょうか。併せて、それにより地域の中でバラバラに活動していた 人たちが結び直されていくのです。
今回のアンケート結果では、仕組みづくりがすごく伸びていました。仕組みづくりというのは、どれだけ綺麗にするかという量的拡大を目指したものも大事で すが、一番大事なことはこれらを通じて地域を担っていく人の輪を広げていくことです。アダプト・プログラムを頑張ってくれているんだけど、やっている人が 限られているとか、次の世代がなかなか育たないという話を時々聞きます。情報がつながり、組織が結び直されていく、そこに参加をすると楽しいという仕組み が出来ると、人が育ってくると思います。
簡単に言えば、現場が大事であるということです。現場で一緒にやることで、まちを大事に考えているといった思いがつながっていきます。個人のここを綺麗 にしたい、ここで何かやると面白いといった思いが、一緒に現場に出ることで協働化、つながりになります。でも、そのままでは「この前は楽しかったね」の繰 り返しで終わってしまいます。一緒になって、それを一つの形にする、例えばアダプト・プログラムといった形にすること、野中郁次郎先生のSECIモデルで 言えば、表出化が大事です。
それは、自分が思い付いたことを文書にしてもいいでしょう。ちょっとしたつぶやきでもいいと思います。それをみんなに見えるようにすることが大事です。 それぞれ頑張っている人は多いですが、その頑張りを口に出さない人が多いです。例えばアダプト・プログラムを進めていこうとか、地域づくりをしていこうと いう時に、その頑張りを知らせていく、形に残していくことがとても大事だと思います。そのために行政は、それぞれのグループの頑張りを表出化させる仕組み を作ることが大事です。
磐田市では、アダプト・プログラムについての新聞を作っています。あれはすごく素敵だと思います。また、インターネットに活動を載せているところもあり ます。これは行政の得意分野だと思います。それが出来れば、それを見て別のグループや他の行政担当課やどこかの企業が、一緒にやれることがないかというこ とで連結化が生まれます。一緒にやれることが生まれれば、現場が大事になります。例えばその新聞をまた内面化させ、この新聞を受けて、ここで書かれている ことを受けて、それをつなげたものを受けて現場に戻る。麻布大学の活動の紹介がありましたが、素晴しいと思います。まちの人と一緒に協働化というところで 進めば、大学とまち、それぞれが考えていることがつながって、新たな暗黙知が生まれてくる。そこでまた、今度はこんなことが出来たということを外に出して いく。それがぐるぐる回っていくと、アダプト・プログラムをやっていく中で、いろいろな地域内でのつながりが出来て面白いことになってくる、そういう仕組 みになると面白いと思います。そういう場を用意することが行政、あるいは中間支援を担当しているNPOの役割であり、やって面白いことだと思います。それ ぞれのグループの個別支援も大事ですが、その方々が何をやっていてどうつながり得るのか、それを可能にする場を用意すること。場合によっては、あるグルー プ同士をつなげることを行政はやるのだという発想でもいいと思います。
逆もあります。行政が縦割りになっている、よくある話です。縦割りは専門化ですから大事ですが、NPOが、あるいは市民・企業がそれをつなげる仕組みを 用意することも考えられます。アダプト・プログラムにそういった形で信頼が生まれてくれば、これとこれってつなぐとこんなことが出来るとか、共通の言葉が 生まれてきます。個人やグループそれぞれが言っていることは、つまりこういうことなのだという翻訳者が必要です。アダプトで言えば、環境部署がやっている と、道路の管轄者と違う言葉を使っていたりします。その言葉をうまくつなぐことによって、新しい価値を持つ言葉が生まれる、そういう場所を作っていく。そ れに参加をしたい人が出てくる。面白いことが出来そうだと思ってもらえる。そういう場としてアダプト・プログラムを作ることが出来るのではないかと思いま す。
単にアダプト・プログラムを置けば地域の力が作れるかというと、必ずしもそうではないかもしれません。ここでは発火という言い方をしていますが、誰かが こういうことが大事だ、こういうことをやると面白そうだと、そう言う人がとても大事です。そういう人が生まれれば、いろいろなところから生まれた発火がつ なぎ合って、地域がとても面白くなると思います。
では、どんな人が大事なのでしょうか。どんな力を行政・NPO・アダプト当事者は持たなければいけないのでしょうか。今、何が起きているのかを受信をす る力がとても大事です。こんなことが起きているのだと、自分たちはこういうことをやっているのだという発信する力も大事です。それをつなぎ合わせて、共通 の言葉を作らなければなりません。その上で、あるいはそれに先だって、そういうことだったら一緒にやろう、あるいは分からないなら私が教えますという、そ ういった誘引する力が結構大事です。
これは自分の弱みを見せることでもあると思います。自分たちはここができない、だからという話をいかに前に出すか。それを出さずに、単に自分たちは頑 張っているのだと言い続けても、じゃあ頑張ればという話になります。誘引する力が出来、地域を作っていく職人が生まれてくるととても楽しいと思います。
大阪府のある地域でキーパーソンだというNPOの方と名刺交換をしました。そういう方はどうやって生まれてくるのか、どういう力を持っているかを少しず つ腑分けしてみると分かってくる。この人とこの人が言っていることをつなげて、でもこれが弱いので、行政・企業に一緒にやらないかと誘う、そういう力を 持っている人だと、そういう形で地域の人がつながっていくことが大事です。人と人をつなぐことが編集する力です。そういうことが出来る人をどうやって育て ていくか。簡単ではないかもしれませんが、行政やNPOの担当者が、こういうことを意識して例えばアダプト・プログラムに取り組んでもらえるとうれしく思 います。
こういう力を持つためには、地域とはどういうところなのか。自分のところはどういうまちかが分かっていないと出来ません。行政の担当者は知っているよう で知りませんからここは難しいです。むしろNPOや地場企業の方の方が詳しいかもしれません。でも、その方々の情報をつなぐこと、いろいろなものが重なり 合うことによって、また新しいものが見えてくると思います。
この点が我々は不十分だとか、欠けているところがあると言える人。自分はすべて分かっているから、私の言っていることを聞いていればいいと言う人でない 人。そういう人たちがちょっと大変でも目立つことを厭わない環境が出来るといいと思います。
よく地域を作るのは、よそもの・わかもの・ばかものっていう言い方をしますが、すべてのよそもの・わかもの・ばかものが地域を作ることができるわけでは ありません。むしろ欠けている部分があったり、あるいは端っこにいることが出来たり、目立つことが出来たりする、そういう人をいかに見つけてくるか、見つ ける仕組みがとても大事だと思います。
情報は編集されることが大事ですが、その情報があふれ出してくる場所を作らない限り、編集も受信も出来ません。ではその場はどんなものなのでしょうか。 磐田市のように紙の媒体でもインターネットでも放送・コミュニティFMでも、いろいろなものを使って情報発信をどんどんしていく。それによって編集が出来 ていくのだと思います。こういう形のシンポジウムも大事ですし、活動記録を作りそれを見せていくことも大事でしょう。ここでこんなことが起きているのだと いうことが分かれば、アダプト・プログラムをどう進めていくかという課題の解決にもつながると思います。
アダプト・プログラムに参加してくれと広報に出す。それだけで参加する人は少ないと思います。アダプト・プログラムなどと大げさなことを言わなくても、 ちょっとここを掃除しましょうといったお試しのお誘いをする。少しの負担であれば、個別の活動に魅力があれば、参加をしてみようかということになってきま す。参加してみたら楽しかった。だったらアダプト・プログラムという形でかかわっていこう、そういった段階を踏んだステップアップの仕組みを作ることもと ても大事です。
先ほどのアンケートで、最近意識啓発と言わなくなってきたとありました。意識啓発というのは、情報だったり、お試しの取り組みだったりしますが、まちを 綺麗にしようと思った途端にアダプト・プログラムにはなりません。まちを綺麗にしようと思った時に、ちょっとしたイベントをする。活動の後でサッカーを見 に行こうとか、野球をしに行こうとか、新しいイベントに行こうとか、そのついでにやってようと。その次に、少しだけ大変かもしれないけど、日曜日の午前中 だけやってみようと。そういったステップ、ステップ、ステップという形で進めていくことがとても大事だと思います。
AISASという言葉がマーケティングの中にあります。どうやって人の気持ちは変わっていくのかという話です。顧客の行動がどう変わるのかという話です が、最初はAttention、知らなかったことを知る、認知と言ってもいいかもしれません。それに興味を持つ、Interest。次は詳しく知ろうと Searchをします。ケータイやパソコンが身近にありますね。あるいは、紙媒体で図書館で探すこともあるかもしれません。今、ネットがあることで、すご く簡単にSearchでき、みんなすぐに調べます。その時に情報がなければ、Action、次の行動には結び付きません。それが先ほどの発信力が大事だと いうことにつながってきます。そこでSearchをすることにより、詳しいことが分かって、じゃあどうしようか、次のステップに行ける。Actionをし て、アダプト・プログラムは楽しかったということになります。それだけでは終わりません。それがこんなに楽しかったのだと参加された方の情報発信と考えて もいいと思いますが、Shareですね。情報発信が出来る場所を用意してあげることです。新聞やインターネットを使うことも有効でしょう。場合によって は、アダプト・プログラム専用の書き込む場所を作ってもいいかもしれません。それをどんどん見せていければ、それがまたSearchされる。お試しが楽し かったと言ってもらえれば、少しの負担だったら参加をしてもいいという人が出てくる。それがまた楽しかったということで、積極的に参加をする人が出てく る。
今皆さんがやっている施策・事業・活動は、この中のどこに当たる事業でしょうか。お試しの中のInterestを持たせる事業でしょうか。それとも、積 極的な参加、SearchからActionをさせるための事業でしょうか。それを意識しないと、とにかくやってみてもなかなか参加者が増えなくてというこ とになります。こういうことを考えてもらえると面白いと思います。
皆さんそれぞれにいろいろなグループがあります。それらが情報発信をする。こんなに頑張っていると、それをつなげる場を用意する。それによって、いつの 間にか地域の力が見えてくる。もちろんつなげる時には、キーパーソンが必要かもしれません。あるいは、そういった仕掛けが必要かもしれません。そういうも のが出来れば、アダプトだけではなく、地域のいろいろな活動に参加する人が見えてくるのだと思います。
もともと地域には、いろいろなことをやろうという人たちがいるはずです。でも、それがアダプト・プログラムだけではなかなか見えてこない。もうちょっと 視野を広げて誘引力・誘発力を持っている人を見つけられれば、その人を核にして何か出来ないかを考えてもらうことが出来るかもしれません。
行政はどうしても公平性が大事です。そういう意味では、誰かだけに目を付けて、その方だけを押し上げるのは難しいです。だったら、間にNPOを介在させ ることもありですよね。NPOは不公平に動ける団体です。不公平に動ける団体を行政が的確に連携して使うという形が出来ると、新しい発火、つながりが生ま れて地域の力が育っていくと思います。
アダプト・プログラムは、この中の一つに過ぎないかもしれませんが、大きな意味を持たらすことが出来ると思っています。
第2部 基調講演
