アダプト・プログラム

アダプト・プログラムの事例紹介


AP

2016年3月

事例-アダプト導入10年~泳げる中海をめざして~(鳥取県米子市)

「中海アダプト・プログラム」

中海と環境問題

中海とは、島根県松江市・安来市と、鳥取県境港市・米子市にまだがる湖。東側は境水道を通じて日本海とつながっており、西側は大橋川と通じて宍道湖とつながっています。日本でも数少ない連結汽水湖として知られており、中海・宍道湖の面積を合わせると国内最大の汽水域になります。豊かな自然を育んできた中海でしたが、戦後すぐの食糧難時代に農地拡大のために埋め立てられ、自然形態が大きく変わりました。また生活排水の流入などにより水質汚染が進み、1962年ごろから汚染が拡大。メタンガスが発生し、夏場にはひどい異臭がする「汚れた湖」になってしまったのです。

中海と環境問題

「中海アダプト・プログラム」

そこで立ち上がったのが、株式会社中海テレビ放送です。米子市・日吉津村・境港市など、約9万8000世帯に地域密着の情報を発信するCATV局で、地域メディアとして地元の人に親しまれていました。中海テレビ放送は、「泳げる中海を取り戻そう」と活動を開始。2001年から毎月1回、第2日曜日に「中 海物語」の放送を始めました。初年度は「中海を見直そう」をテーマに、中海の生態系や中海が抱えている課題、中海の魚やそれを使った料理などを報道。2年 目となる2002年には、中海やその周辺を拠点に清掃活動をしている方々を取材し、番組に登場してもらいました。番組で地域の人にインタビューしたこと で、「中海をきれいにしよう」という気運が一気に高まりました。これにより、「中海をなんとかしよう」と動き出す人や団体や、中海に興味を持つ人が増えて 来たのです。こうして2002年、中海再生プロジェクトが立ち上がりました。ここで目指したのが「10年で泳げる中海」です。プロジェクトメンバーの中心 となったのは、中海物語で取材した活動団体の方々。地元企業にも賛同していただき、「中海の豊かな自然環境を街の活性化にいかし、市民の憩いの場として活 用したい」という思いが強くなったといいます。

ラムサール条約締結とアダプト制度の導入

中海テレビ放送では、「中海物語」の中で中海再生プロジェクトの活動や、活動団体の紹介を続けました。ここで問題になったのは、中海の大半が島根県に所属していることでした。中海テレビ放送は放送権の関係上、安来市や松江市に向けた放送ができません。このため島根県側では、中海に対する関心が低かったのです。そこで島根県側に放送権を持つ、日本海TVと連携。日本海TVもアダプト活動団体となることで、島根県側への放送も増えたといいます。  2005年に中海と宍道湖は、「中海・宍道湖ラムサール条約」に登録されました。これに伴い、中海再生プロジェクトでは、同様の問題を解決に導いた長野県諏訪湖を視察します。中海と同じように水質悪化が問題となっていた諏訪湖が12年で泳げるようになったと聞き、「それなら中海は、10年で泳げるようにしてやろう」と、メンバーたちは奮起。重点事業の一つとして団体側から行政に、アダプト・プログラムの導入を提案しました。中海テレビ放送は番組内でそれを紹介。米子市環境政策課の担当者に取材し、2005年10月の番組で「米子市もアダプト活動に取り組みます」と発表させたのです。地域メディアと市民の志により、行政が動いたのです。米子市は2006年度よりアダプトプログラムを導入し、30団体でのスタートとなりました。  アダプトプログラムに参加する活動団体は、活動日が決まると事務局である中海テレビ放送に連絡をします。必要な枚数のゴミ袋を事務局まで受け取りに行き、当日活動を行います。終了後は1カ所にゴミをまとめ、ゴミを置いてある場所を事務局に連絡。事務局は米子市に連絡し、ゴミの収集を依頼するという流れになっています。

中海の環境を支える方々

中海再生プロジェクトのメンバーとして、中海の環境を支える方々をご紹介します。

「中海アダプト・プログラム」

左:内藤武夫さん 右:田守利彦さん

中海でジュニアヨットクラブを運営 する内藤武夫さんは、1990年ごろから、清掃活動を始めました。中海でヨットを走らせていたとき、子どもたちのヨットが急にスピードダウンすることがた びたびあったそうです。理由は、水中に浮遊していたナイロン袋。ナイロン袋がヨットにひっかかったことが原因で、スピードが落ちていたのでした。「ナイロ ン袋がひっかかるのなら、掃除すればいいという単純な理由でした。例えばスポーツチームが体育館やグラウンドを借りた場合、返却する前には掃除をしますよ ね。しかしヨットの場合、活動の場として中海を借りますが、中海のために何もしていません。それなら、感謝の気持ちを込めて中海を清掃しようと子どもたち に呼びかけました」と内藤さん。年に3~4回の頻度で実施していたのですが、清掃してもまったくゴミが減らないことにより、子どもたちのやる気が削がれ、 1度は継続を断念します。しかし5年後に再度再会。子どもたちの父兄や近所の人たちも協力してくれ、毎月1回の清掃活動が定着しました。スタート当時は多 かった家庭ゴミやポイ捨てゴミも徐々に減り、現在は全体の2割程度なのだとか。逆に増えたのが、アシやヨシ。上流で植えられた物が冬になって枯れ、下流に 流れてくるのです。そのままにすると腐って湖底に沈みヘドロの原因となることから、清掃が欠かせません。内藤さんは「道路に落ちているゴミを拾うのとは違 い、岩と岩の間に手を突っ込んでゴミを引っぱりださなければなりません。非常に時間がかかるし疲れるので、1時間で1平方メートル綺麗にするのがやっと」 と語ります。最盛期には50人程度が参加していましたが、現在は6~7人程度。ジュニアヨットクラブの子ども自体が減っているため参加者の増加は見込めま せんが、小学生のうちから清掃活動に参加し「ゴミを捨てないこと、落ちているゴミを拾うこと」を当たり前として認識する人が増えればと願っているそうで す。 「中海アダプト・プログラム」

行政区域や政党を超えて広がって行く活動

中海・宍道湖は、2県4市の行政区域にまたがって広がるため、行政との調整は困難でした。担当者レベル の話し合いでは無理だと考えた田守さんは、つてを頼って直接市長や県知事を訪問。それを中海テレビ放送が取材しました。「中海をきれいにする」という行為 に、反対を唱える人はいません。市長が積極的に取り組みますとテレビで語れば、担当者は「やりません」とは言えなくなります。同様に島根県知事と鳥取県知 事にも話をつけ、ついに2県連携の一斉清掃が実現したのです。現在は県知事夫婦も参加し、両県で8000人以上が参加する巨大清掃イベントにまで発展して います。「こんなことをしてほしい、あんなことをしてほしい、無い物ねだりをしても、行政は動きません。ケーブルテレビと市民がうねりをつくり、行政を動 かしたんです。理念と志と熱い思いを持って、行政をも巻き込む仕組みを作ることが大切です」と、この活動の仕掛人である、中海テレビ放送の高橋孝之取締役 副会長。アダプトプログラムの登録団体は、10年で3倍以上になりました。所属団体は、地元企業やボランティア団体、学校などさまざま。自民党から共産党 まで政党を越えて県議会議員が清掃活動を行う「鳥取県西部県会議員団」も、活動団体として登録しています。

中海をもっと身近に感じてもらうための仕掛けづくり

鳥取県には皆生を代表とする海水浴場がありますし、島根県には宍道湖があります。水辺はたく さんあるのだから、わざわざ中海を選ばないという人は多かったようです。そこで湖岸に興味を持ってもらうため、水辺のコンサートやクルージングなどのイベ ントを開催しています。また日本水泳連盟は2013年、中海をオープンウォータースイミング(海や川・湖といった自然の水の中で行われる長距離水泳競技) の競技場に公式認定。中海は、「泳げる湖」として認められたのです。市民が自発的に考えて行動し、ケーブルテレビが人と人を仲介しながら情報を発信。その 報道力でうねりを作り、行政を動かす。これが、中海アダプトプログラムの最大の強みではないでしょうか。オープンウォータースイミングは、2016年6月 の開催が決定しています。オープンウォータースイミングは他県でも実施され、スポーツツーリズムとして認識されています。しかし中海は、観光ではなく環境 に特化したオープンウォータースイミング。中海アダプトプログラムでは、中海に関心を持ち、中海の環境について考えるきっかけとなる番組を報道し、活動し ている個人や団体を仲介する存在でありたいと考えています。

<団体概要>

プログラム名 中海アダプト・プログラム
問合せ 中海アダプト・プログラム実行委員会(㈱中海テレビ放送内)
アダプト導入2006年4月~
HP中海再生プロジェクトホームページ(外部リンク)
関連ページ 食環協HP-全国普及状況内 概要はこちら(リンク)
関連ページ新しいタイプのアダプト・プログラム
「中海アダプト・プログラム」がスタートしました(鳥取県・島根県)(リンク)

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